2021年10月15日
内外政治経済
研究員
芳賀 裕理
日本危機管理学会は2021年9月25日、企業危機管理・サイバー研究部会(部会長・大森朝日理事)の2021年度第1回会合をリモートで開催した。今回は原田泉会長(国際社会経済研究所上席研究員)が「経済安全保障と資本主義の変革」について講演。米中新冷戦時代を迎え、国家・企業は短期的な経済安全保障政策に加え、長期的な視点から資本主義体制の変革・再定義が必要だと論じた。
原田泉氏の講演テーマ
(提供)原田泉氏
原田氏の講演内容のうち、本稿では「資本主義の変革」と「自由民主主義を実現するコミュニティ・ネットワーク」を紹介する。前者の「資本主義の変革」では、原田氏は「第三の支柱--コミュニティ再生の経済学」(ラグラム・ラジャン著、月谷真紀訳、みすず書房)など参考文献4冊を紹介。その上で、日本企業はまず、「長期的な視野からビジネスプロセス全体をデジタル化していくDX(デジタルトランスフォーメーション)を進め、大胆な変革を実施する必要がある」と指摘した。
また、原田氏は「権威主義諸国とは異なり、日本企業は人権を重視するとともに、セキュリティ・バイ・デザイン(=コンピューターシステムやソフトウエアを開発する際、構想段階からサイバーセキュリティ対策を組み込むこと)やプライバシー・バイ・デザイン(=個人情報を取り扱うシステムを構築する際、構想段階から個人情報保護のための方策を作り込むこと)を積極的に導入することが不可欠だ」と主張。これらが達成できてこそ、日本独自の民主的なステークホルダー(=利害関係者)資本主義の実現に繋がると主張した。
一方、後者の「自由民主主義を実現するコミュニティ・ネットワーク」において、原田氏は「日本は国家による中央集権的な効率性重視の巨大規模クラウド型の監視社会ではなく、効率性を担保しつつも地方分権を進めるべきだ」と提唱。さらに、「個人の自由や人権やプライバシーを最大限に尊重し、データや情報をコミュニティで収集・解析・蓄積・活用する『自律的地方分権的エッジAIネットワーキング』によって、自由と民主主義社会を目指すべきだ」と提唱した。
その上で原田氏は、「自律的地方分権的エッジAIネットワーキング」においてはエッジデータベースが中心的な存在になり、それが地域コミュニティに必要なサービスを効率的に提供すると主張。これを実現するためには、ネットワーク同士を繋げるための標準仕様を事前に共通化しておく必要があるが、サービス提供が必要でない時にはそのネットワークを遮断し、セキュリティと人権を担保する仕組みが必要だとも指摘した。
自律的地方分権的エッジAIネットワーキング(イメージ図)
(提供)原田泉氏
講演後の質疑応答では、会員からコミュニティ・ネットワークに関連して「接種券と健康保険証やマイナンバーカードが紐づけられていれば、ワクチン接種をめぐる混乱は避けられたのではないか」「日本に地方分権は根付くのだろうか」といった質問が出された。
前者について、中野哲也理事長(リコー経済社会研究所研究主幹)は「日本の縦割り行政が問題であり、マイナンバーに権限を与える法律を作るべきではないか」と指摘。後者については、原田氏が「そう思うところもあるが、(地方分権の)方法を提示することが大切ではないか。日本はいろんな面で変わっていくしかないと思う」と述べた。
報告する原田泉氏
一般社団法人・日本危機管理学会の活動や入会に関心のある方はホームページを御参照ください。(https://crmsj.org/)
芳賀 裕理